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[1795] 【月泳ぐ・ピアニシモの日々で】
日時: 2008/03/22 22:53
名前: Raise ID:emosLFlo

(12/15)Start. (3/22)End.
 言うまでもなく、書き手はRaiseです。

二部構成です。
[1][月泳ぐ][>>1-17](12/15〜3/18)
[2][ピアニシモの日々で][>>18-25](3/18〜3/22)
メンテ

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Re: 【月泳ぐ・ピアニシモの日々で】 ( No.21 )
日時: 2008/03/22 02:29
名前: Raise ID:BQ.CKBdM

[4][魔女猫さん]

 ジレンマなんだ、と色鉛筆片手に。何て傲慢なんだあ、とボールペン片手に。
「やっぱ、傲慢っすかね」
「何て言うか、もうナルシストの感すらあるな」
「なんていうかね、よく解んないんだけど、第三者のままで居たいんだ。でも、ときどきは、いっしょの何かになりたくなる。触れたいけど触れたくない? みたいな」
「そりゃあまあ、何とも御高尚なことで。プラトニックかな、何かそれ」
 キュートな黒猫の魔女を、セインに向ける。もうちょっと、何て言うのか、セクシーだったと思う。ぷっ、と吹くと、笑わないでよねー、と。猫にセクシーも何も無いよ。かもねー。僕犬派だから、猫のかわいさは解らないけど。
「で、どゆこと」
「だからさ、相手の秘密を知っていく、相手の全てを知っていく、っていうことは、相手の汚いこと、触れられたくないこと、それを全部受け止める、ってことでしょ。それをしたくない、っていうのは、言っちゃ何だけど、遊びに留まってる、ってことなんだと思うよ。蜜を吸ってくだけ、ってこと」
「それも、充分、傲慢じゃないかな」
 シナモンティー一気飲み。もうちょっと味わってよ。こんなの飲んだら変わらないじゃん。そういうこと言う人居るよね。でもそれ結構高いんだよ。一滴一滴少なくとも君の血より価値あると思う。何その微妙に怖い喩え。
「どうして傲慢?」
「そういう、おいしいとこだけほじくるようなの、許さないところ」
「今の世の中じゃ、確かにその方がいいかもしれないね。表面だけの方が、愛しやすいかもしれない。奥まで立ち入ることはない。もしくはそれには早すぎるだけなのかもしれないけれど。秘密、って、そういうものなのかな」
 修正を入れつつ。もっと毛並みを艶やかに、瞳なんてメロドラマの美女みたいに安っぽくごりごりと装飾してやるのだ。それこそもう、少女趣味路線で。
「たぶん、だけどね」
 息入れて、何かの合言葉みたいに、しっかりと。
「私もセインも、すごく傲慢だよ」
「だから、いいね」
「かもね」
 ネオンサインみたいな怪しいきらきらを、眼に入れる。ちょっと、何それ。何かすごく趣味悪いよ。いやほらさ、もっとこう、セクシー、って感じで。お前時代からずれてる、その眼は絶対に年代がばれるぞ。そういう妖艶、って感じじゃなくてさ。
「感じじゃなくて?」
 彼はちょっとうーんと唸って、
「こう、秘密がたっぷーり、ある感じで」
 ちょっと、考えて。
「じゃあ、人間みたいに書けばいい?」
 苦笑いして、そうかもね、と。彼の足が一体どこにあるのか、結局私は知らない。セインは嘘つきだから、そんな秘密は明かしてくれない。強い、と思う。
「あのさ」
「ん」
 魔女猫の眼は、ちょっと濁ったダークブルー。でも、飾るのは、一番美しいきらきら。
「人間皆秘密持ってるわけだよね」
「そりゃー、皆恥ずかしいこととか、悪いこととかしてるからね」
 それこそ秘密が、このカップには収まり切らないぐらいに入っているだろう、そんなきらきらの瞳。秘密のきらきら、だ。魔女猫の秘密は、胡散臭くはない。ミステリアス、って奴だ。たぶん、それがセインのやりたいことなんだろう、と思う。
「それは、たぶん、すごいことだよ」
「同感、しとくよ」
 ねえねえ、こんなので良い? 速いね訂正。そりゃあ仕事のスピードに関しては自信ありまくりですよー。クオリティも上がってほしいもんだけど。えー、ちゃんと渾身フィーリングだったよ。何その奇っ怪な物言い。ん。ネタ元は秘密だよー。
「秘密がなかったら、やっぱり人間薄っぺら?」
 魔女猫は、たぶん月には居ない。真っ昼間なんか、街の裏路地でだらだら寝そべっているに違いない。夜になったら、月の悪口言いながら、色んな魔法をかけるのだ。
「たぶん、お前の頭の中身ぐらいの厚さだな」
「何かそれ、大いにむかつくんですけどー」
 言いながら、伯母さんのことを、語る日が来るのだろうか、と思った。たぶん、ない。眩すぎる真実なら、やさしい嘘を、選びたい。きっと二人にも、このことを明かすことはないだろう。窓に目を、でも月はない。昼の光が、拭い取る。
メンテ
Re: 【月泳ぐ・ピアニシモの日々で】 ( No.22 )
日時: 2008/03/22 21:31
名前: Raise ID:emosLFlo

[5][終わる・A]

 仕事休みの日曜、ひとり画材を買いにいった帰りに、同じところで、同じ子と会った。アコースティック・ギター、五線譜、譜面代。目が合うと、ぺこり、と彼女から挨拶してきた。おとなしめ、落着いた感じの、秋色着こなし。
「おひさしぶり、と言えばいいのかどうか解らないね」
「たぶん、お久しぶり、って言えばいいんだと思います」
 彼女も何かふっ切れたのかもしれない。不器用なルージュの無い彼女は、それなりにかわいくて、ギターを時折気まぐれに弾く私達に、秋風ぼろん。
「また、歌ったり、する?」
「……はい。まだ、続いてます」
「そっかー。お姉さんも、相変わらず絵描いてる最中だよ」
 ああ、きっとこの人も、私と一緒の子なんだろうなあ、と直観的に分かった。私達、ふたりとも、人の群れから置いてけぼり。私達はとても怖がりで、あんなスピードで歩けたりは、しないのだ。だから、こうやって、気まぐれに、散歩中。
「ね、今歌えたり、する?」
「はい、丁度今から、始めるつもりだったり」
 彼女は、にっこり。私も、にっこり。名前も知らない、赤の他人。そういう人のはずなんだけれど、どこかで、繋がっている。私達は、みんな、繋がっている。
 猫のしっぽみたいな、アルペジオで。

 A cradle of epheme.ron sparkled in the dark
 the starry may be wishful for spiritual harmony
 Like a spire,he.rmaphrodite melted into themselves
 Seize the day,Seize the day,like them, an idiot

 Someday chrysoprase rain embraces this season,
 and I'll nurse this infant holy ground with an apricot
 At that time be with me,please,howeve.r dreadful you feel

 Praise for nativity will weave a glorious close of the wisdom
 Crossing my finge.r,praying for this holy invitation,
I'm gently mingling with roots of the sea with bright happiness
 There,the nativity carols are audible to us now...

 Cuddled in nocturnal repose,I'm in a drowse with my fragment

「また、会えたら、いいですね」
 演奏が終わってから、先に彼女が呟いた。私も、そう思った。また、あなたと会えたらいい。あなたが、そこにいる。私が、ここにいる。
「そうだね」
 私は、出会った人みんなと、繋がっていられるだろうか。
「また、会えたら、いいね」
 また、会えたら、きっと楽しい。最初から決まっていること、なんてのじゃなくて、神様が暇潰しに幸運でも授けてくれる、そんな程度で、出会いたい。偶然の、アトラクシア。至上の幸福は、そんな俗っぽいラッキーでいいのだ。
「そっちは、色々大変かな」
「あなただって、色々大変そうです」
「そうだね。みんな、大変だね」
「みんな、大変なんでしょうね」
 私達は、みんな、大変だ。大変だけど、神様の贈り物とかに色々すがりついて、それなりに日々を生きている。うつろいゆくバランスを、泳いでいく。
「じゃあ」
 彼女が、そう言った。何て、返したら良いのか、解らなかった。偶然出会ったひとなのだから、さよなら、とも、また会いましょう、とも違う。そのうちに、ああ、これか、と思い当たった言葉。
「ありがとう」
 彼女は何でも解ってるみたいな聡い眼で、私に微笑んだ。別れのときは、ありがとうを言おう。出会えたことに、ありがとう。こうして繋がっていてくれることに、ありがとう、と。振り返らず、走る。走っていく。この星の、まわる。
 世界が、もっとひとつであればいいと、祈ったりなんて、してみた。
メンテ
Re: 【月泳ぐ・ピアニシモの日々で】 ( No.23 )
日時: 2008/03/22 21:58
名前: Raise ID:emosLFlo

[6][終わる・B]

 もうすぐ、終わるね。そうだね。終わる、ね。
「寂しいね」
 いつのまにか、ユレのリビングが日々になっていた。私もユレも、ひとつの重なりに居た。砂糖が一杯入ったキャラメルティーも、色鉛筆も、原稿用紙も。
 彼の車輪の、こきこきこきっ、というあのリズムも。
「寂しい? いつでも、会えるのに?」
「でも、何かひとつ、理由が無くなったよ。ここにいていい、理由、みたいな」
 そう言うと、彼はくくっ、と笑って。そんなの、要らないよ、と。いつでも、何かあれば、ね。喧嘩とかしたら逃げ込んできていいよ、と。
「何かね、そんなんじゃなくって、そういう理由じゃなくって、さ」
「じゃ、どういう理由」
「よく解らないけれど、距離があるままで居れる理由、みたいなの」
 この家から、ユレの家まで、距離があるように。私も、セインと距離を取っていたい。仕事という理由が無ければ、きっと私達の距離はゼロになる。
 私は、たぶんそれがずっと、怖かったのだ。
「傲慢」
 ぽつん、と、でもにこにこしながら。もうすぐ、終わるのだ。最後の一枚絵、王様が幸せそうに月と太陽の下で笑ってるところ。ヘタレさんな王様も、目立ちたがり屋の太陽も、ちゃんと色がある。最後の色は、秘密だらけの、お月さま。
 一番最後の甘いところを味わうように。ティーカップの底に溜まった砂糖を、恥ずかしい思いで、でも幸せに舐めちゃったりする、そんなときみたいに。
 私達は、一言も、喋らずに、仕事を終えた。
 色鉛筆を、全部ケースにしまった。スケッチブック、黙ったままの彼の手に。もう、終わったことには、興味がない。私達は、ひとつの日々を、終わらせた。
「そういえば」
 彼は立ち上がって、まだ飲んでいない私のキャラメルティーを、勝手に飲んで。
「僕達って、一緒に住んでたんだね」
「昔、ずっとずっと古い話みたいだね、何だか」
 もう、終わったね。ああ。もう、終わったよ。
「懐かしかったり?」
「そうじゃない。懐かしいんじゃなくて、そうあったことを、祝いたい」
「今までの、この仕事も?」
「童話にはちゃんと供養をしてやるべきだ」
「えー。何それ。自信無しで書いてるみたいじゃん」
 彼は、ちょっと笑って。でも、何も言わない。もしかすると、本当にそうなのかもしれない。たぶん私は、彼のひとりぐらしの理由も、足の無い理由も、ずっと知ることは無い。私達は互いの距離を保ちながら、ずっと同じ速さで歩いていく。
「あのさ」
「んー」
「ビールとか、飲もうか。何か、食べようか」
 お酒、飲めないよね、なんて、言わない。拒食症、直ってないだろ、どうせ、とか、そんなことも、言わない。
「また、今度にしよう。また、また、今度、ね」
 寂しそうに、ちょっとだけ、笑っていた。ごめんなさい、と思う。また、今度なんて、そんな都合の良い日なんて、絶対に、来ない。そんなこと、誰にだって解る。私達はもう、別々の家に住んでいるのだ。日々は、失われた。
「今度、に、しよう」
「そのときは、ユレと一緒で良いよね」
「そのときが来たら、そっちのピアノさ、調律していい」
「いいよ。そのときが、来たら、ね」
 セインから、ひとつ、香るものがあった。とてもとても古いにおいだけれど、それはその人に染み付いた何かだった。絵具の、におい。そのときが来たら、セインの車椅子を押していってあげよう、と思った。海の終わりまで、ずっと。
 終わることを祝おう。悔やむより、懐かしむより、祝っていよう。
「何だか、お別れみたいだね」
 くすっ、と笑って。
「いつでも、会えるよ」
「……そうだね」
 でも、このセインとは、もうお別れだ、なんて言葉は、言わないで。
 相変わらずボルト緩みっぱなしの涙腺が開いて、すーはーすーはーって呼吸して、そんなことがばれたら、何もかもがだめになってしまいそうで、ありがとーっ、って最後に言いたいことを伝えて、振り返りなんて、絶対にしないで。
 日々の終わりを、やさしい気持ちで、祝えたら、と願った。
メンテ
Re: 【月泳ぐ・ピアニシモの日々で】 ( No.24 )
日時: 2008/03/22 22:32
名前: Raise ID:emosLFlo

[7][終わる・C]

 私の中で、ひとつの日々が終わろうとしている。
 終わらずに居るものが神様だというのなら、私は絶対に神様じゃない。だから、私はじっと座って終わりを見つめているしかない。久々に取り出したイヤホンで、聞いていた。はじまりの音楽を。忘れ物、じゃなくて、たぶん、扉だった。
 去りゆく日々は、ささやかな忘れ物なんて、残さない。

 隣の背中を、抱きしめた。眠れないのは、私だけじゃない。ユレの中でも、きっとひとつ、何かが終わっているのだ。言葉と記憶を取り戻しても、甦ることは決して出来ない、そんな何かが、ひとつ。
 月のスピードが、どんどん速くなって、私とユレを、追い越していく。夜が、失われていって、そしてまた、夜が来るのかもしれない。バランスを知らない私は、いつまで夜明けが来てくれるのかなんてこと、知りやしない。
 それでも。
 新たな夜明けが来るまで、ずっと、こうして。重なり合ったまま、それぞれの日々を、弔っていこう。バランスの無い世界が、もっと整っていけるように。
 夜明けなのか、ただのまぼろしなのか。青。永遠に続く、繋がっているブルー。私達の部屋は夜のか朝のか解らない青で、海の終わりみたいに。世界はまわっているのか、止まっているのか。けれど、この部屋は、確かに止まっていた。
 ひとり、だった。私はどこまでもひとりで、何もかもから取り残されていた。けれど私は、ひとりの私として、その青に許されていた。全ては失われ、私は孤独で、だけど、私は、私だった。たぶんそれは、奇跡。アトラクシア、だった。
 最後、一番最後に、私はようやく、自分の祈りたいことに気付いた。だから、私は願う。一番最後の、飛びっきりわがままで、神様じゃないと出来ないことを。
メンテ
Re: 【月泳ぐ・ピアニシモの日々で】 ( No.25 )
日時: 2008/03/22 22:41
名前: Raise ID:emosLFlo

[8][祈り]

 月のかたちが、ころりころり、と廻り続ける。
 失われた人たちを乗せて、ぐるぐると、いつまでも。
 もし許されるならば、私の日々もあそこにありますように。
 私が、すべての記憶から消えうせてしまいますように。
 この世界と、つながることなく、過ぎ去っていけますように。
 失われていけますように。
 月に泳ぐ魚も、ライオンの王様も、魔女の猫も、スケッチブックの落書きも。
 すべてすべて、失われていきますように。
 酒飲みみたいな料理のレシピも、大切にしていたくまのキグルミも。
 何もかもが、葬られますように。
 離してしまった手も、欠けてしまった物語も。
 すべてに、許されますように。
 私がひとりではなく、ぜろになってしまいますように。
 そしてもし許されるのならば、
 このピアニシモの日々と、同じ月で眠れますように。
メンテ

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